お前は、俺のもの。

「随分と急ですね。どうしてそうなるんです?俺は何の話も聞いていませんよ」
『お互い話し合って決めたのは三日前だ。専務秘書と別れたんだろ?丁度いいじゃないか』

まるでスイーツの食べ比べみたく、「こっちを食べたら、次はあっち」のような言い方をする。さすがに苛立ちを覚える。
「だから、おかしいでしょ。何故そんな大事な話を決める時に、当人の俺を呼ばないんですか?結婚するのは俺であって親父じゃないでしょう」

出来るだけ冷静に口を開いたはずだが、気持ちを抑えられているかわからない。
電話の向こうで、親父が大きく息を吐いたのが聞こえる。
「心配するな。兄貴たちの嫁も俺が選んでいるんだ。今は子供たちがいて、どっちも幸せじゃないか。お前にも身元のはっきりした花嫁が必要だ。千堂設備の美しい令嬢だ、花嫁修業もしているそうだ。」

「は…?千堂設備だと…?」

千堂設備の一人娘といえば、有名企業から一部政治関係者に至るまで「千堂紗羅」という名前を知らない青年男性はいない。
気に入った男を次々と自慢の美貌で誘い、その気になればお互いベッドへ倒れ込むという、「男を食う女狼」と呼ばれている女だ。何度か見かけたことはあるが、その度に連れている男が違い、「あれが今日の獲物か」と他人事に思ったこともあった。

──それが今度はあの女の一生の獲物は、俺だというのか…?

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