お前は、俺のもの。

隣同士で座る私たち。朝のように向かい合って座ればいいのに、鬼課長は何故か隣に座った。
彼の食べる姿を見る。スプーンを持つ手を今更ながらよく見ると、節くれだつ長い指をした男性の手をしている。

──あの手が私に触れているんだ…。

そう思うだけで、ドキドキした。

そうとは知らず、彼は黙々とオムライスを口に入れていく。

やっぱり、美味しくないんだろうか。

綺麗に平らげたお皿。グラスの水を飲み干すと「ごちそうさま」と言って私を見た。

「単純にケチャップの味がしたオムライスだった。でも、どこか懐かしい感じがした」
と、鬼課長の顔に優しさが見えた。
「懐かしい…?」
と、私は首を傾げる。
彼は微笑んで、頭を撫でてくる。
「そうだな。百年に一回くらい食べてもいい」
「えっ、百年?それ、どういう意味ですかっ」

──それって「生まれ変わったら、また食べてやってもいい」って聞こえるんですけど?!

不貞腐れている私に素知らぬ顔で食器を洗う鬼。
鬼が言った。

「お前のオムライスの味はわかった。だから、もう食べない」
と。

不貞腐れていることを忘れるくらい、頭を思いっきり叩かれた気がした。
「やっぱり、二度と食べたくないくらい…不味かったんですね。だから、百年に一回なんですね…」

自分が食べた時は、食べれないくらい不味いとは思わなかった。しかし料理ができる人にとっては酷かったのだろう。
そのオムライスを無理をして全部食べてくれたのだ。むしろ感謝するべきなのだろうか。
< 190 / 285 >

この作品をシェア

pagetop