お前は、俺のもの。
鬼は私の前にやって来ると、椅子の背もたれに手を置いて俯く私と目線を合わせた。
「そうじゃない。凪、あれはお前が妹のために作っていたオムライスだろ?」
「…え?」
突然、春奈のことが出てきて顔を上げる。鬼課長は少し困ったように笑う。
「凪を迎えに行った時に、妹から聞いたんだ。だから、お前が唯一作れる妹のためのオムライスを、俺が食うことはできない。多分、味は昔から変わっていないんだろうな。まあまあ美味かったから、また妹に作ってやればいい。その代わり──」
はらはらと、両方の頬に流れる涙を、彼の親指が優しく拭っていく。
「お前のためのオムライスは、これからは俺が作ってやる」
鬼にそっと重ねられた唇は、少しだけケチャップの味がした。