お前は、俺のもの。
バスタブの中で、大きな一息をついた。
──…こんなに一日が長く感じた日は、初めてかもしれない。
昼食後、鬼課長が外出してから、暫くぼんやりしていた。
会社で彼の助手となってから傍らで仕事をしてきたが、彼に対して自分で思っていたことが次々と塗り替えられていく。
誰もが口を揃えて「一ノ瀬課長は仕事がデキる、仕事に厳しい」という評価に、私が「怒ると怖い」を上乗せいていた。今は「仕事がデキる、強引、料理上手、キス魔」が頭に浮かんで、そこにスパイス程度に「優しい」をプラスする。
そんな鬼課長を「好き」と自覚した私。
彼は、たくさんのキスと甘さを私にくれる。
……自惚れても、いいのだろうか。
三ヶ月が経ち「助手」が解除されたら、彼は私への接し方も変わるだろうか。
昼間、鬼課長が出かけてからのことを思い出す。
鬼課長のことでいっぱいの頭のまま、食器を洗い、洗面所からバケツと雑巾を取り出す。そしてフローリングというフローリングを片っ端から磨き始めた。
リビングにある自分の鞄からスマホの着信音が聞こえたのは、ベランダが西日でオレンジに染まった頃だった。
『凪さん、お疲れ様です』
ほんの数日、聞かなかった綾乃の声に自分の中に安心感が生まれる。
涙腺が緩みそうだ。