お前は、俺のもの。
車のトランクには、中身の商品が割れないように箱がしっかりと固定されている。
結局、何を引き取ってきたのか、私には分からないままだ。
目当てのものが手に入っても、車内の空気は複雑だ。そして長野も暴風域に入ったのか、風の強度も増してきた。
「…マジか」
高速道路のインターは通行止めになっている。時間は午後九時を過ぎている。
台風情報を調べると、暴風域はかなり広い。会社の辺りは暴風域をギリギリ脱したようだが、自分たちが帰るには、この暴風域を横断しなければならない。
「とにかく、国道で戻れるところまで戻ろう」
そういって、鬼課長はハンドルを切った。
渋滞してるのではないかと思われた国道は、台風のせいか比較的車の交通量は少なかった。しかし近くの県道では冠水している場所もあるらしく、警察の指示を仰ぐ車も何台か見かけた。
鬼課長の長時間の運転に心配していると裏腹に、時間は過ぎていくばかりだ。さすがの彼も、少し疲れているようだ。
「一ノ瀬課長、少し休憩しませんか」
商品は手元にあるのだ。あとは帰るだけなのだから、無理に急ぐ必要はないのではないか。何も過ぎていく時間に抗うより、確実に帰れる手段を取った方がいいに決まっている。