お前は、俺のもの。
コンビニのお手洗いを借りて、私は雑誌コーナーの窓ガラスから彼の車を見つめた。
例え十分でも眠れたら、体も少しは楽になるはずだ。特に興味のない週刊誌のページをペラペラと捲る。
お店の壁時計はもうすぐ午後十一時になろうとしていた。
再び鬼課長の車に視線向けると、彼は車の中で電話をしていた。車の位置はお店から少し離れているが、車が前向きに止まっているため運転席が見えるのだ。
彼が起きているとわかり、私はコーヒーと緑茶を買って車に戻った。
少し濡れた頭と服で車に乗り込んだ私に、鬼課長は両手と頭をハンドルに預けて、前屈みになって呟いた。
「やっぱりお前を連れてきたのは、間違いだったかもしれない」
その低い声と車内に広がる冷たい空気に、私の体もギクリと固まる。
「何か…あったんですか」
様子を窺いながらも聞いてみた。
彼は眉間にシワを寄せ、明らかに怒りに満ちた顔をしている。
──何に、怒っているのだろう。もしかして、私に対して…?
心当たりがなくても、睨まれると怒らせた原因を頭の中で巡らせてしまう。
コンビニ袋を握る私に聞こえてきた、唸るような声。
「今、ここにあいつらがいたら、俺は間違いなく殴り飛ばして半殺しにしている」
苦しそうに吐き出した言葉に、ゾクゾクと背筋が凍る。
ガンッ!
ガツンッ!
突然の大きな音にビックリして、体が助手席の上で跳ねた。
鬼が両手でハンドルを思いっきり叩いたのだ。
「車を潰してもいいと思うくらい、ムカついて仕方がない。狂いそうだ…」
そう言って、今度は右手の握り拳で「ガツッ!」とハンドルを殴った。