お前は、俺のもの。
「俺の発注した「アレ」を、勝手にキャンセルした犯人が見つかった」
若干目力を緩めた鬼が、俯き加減でポツリと言った。
「俺たちが長野へ向かってから、事務所の中で犯人探しが始まった。各階のエレベーターホールと各部署の事務所の廊下に防犯カメラが付いているのは、凪も知っているよな?」
私に顔を向けて話し始めた彼に、私も頷いた。
十年ほど前のことだが、ショールームの商品がなくなったり、企画部にあったサンプルが消えたり、社員の私物が紛失したりというトラブルが重なった。その件について取締役会が開かれ、防犯カメラを社内の主要箇所に設置することに決まったのだ。
防犯カメラが設置されてから、そういったトラブルが激減したと聞いている。
「斉木課長から電話があった。ビルを管理する警備会社に問い合わせて防犯カメラを確認したそうだ。先々週の営業部前の防犯カメラのデータに、営業部に似つかわしくない人物が映っていた、と言っていた」
鬼課長の話し続ける内容は、私にとってとても衝撃的で信じられないものだった。
「そんな…そんな…」
動揺するばかりなのに、泣きたくもないのに涙が流れ落ちる。
鬼課長の親指が、私の頬をそっと拭う。
その逆三角形の瞳は、悲しんではいなかった。
「俺も最初は驚いた。あいつらの気持ちが全くわからないわけじゃない。それより仕事で俺たちが築いてきたものに、己の私情で振り回されたことが許せない。それ以上に何の関係もない凪を巻き込んだことが許せない。俺の本気が詰まった「アレ」を勝手にキャンセルしたことは、更に許せない」
次から次へと湧き上がる憤りが収まらないのだろう。私の肩を抱く手はガチッと固まって、その感情が流れ出ているような気がした。
「査問委員会なんかで、俺の気が晴れると思うなよ。あいつらには、鉄槌を下してやる」