お前は、俺のもの。
「……」
ガックリと肩を落とす私の隣に、シャキッと背筋を伸ばして立つ鬼課長。
「…せっかく、せっかく、すごく楽しみに…」
視界がぼんやりと滲むくらい目に涙を浮かべる私に、鬼課長はぽんぽんと軽く頭を撫でる。
「お楽しみは後にとっておけば、楽しみも倍増する。今日の見学会が終わったら俺も会社に戻るから、一緒に帰ろう」
「…はい」
励ます彼に、項垂れる私。
本日出勤する由奈が、体調を崩し病院で診察してもらったところ、胃腸風邪と診断された。彼女は今日と明日はお休みとなった。綾乃は今日は休日で加瀬部長も休みを取り、二人で綾乃の実家へ行くことになっている。
営業事務の不在の今日、出勤している私が事務所に戻ることになったのだ。
マンションの前に「一ノ瀬リビング」の文字が入った車が横付けされる。
助手席から降りたのは、営業企画課の笹島主任だった。
「おはようございます。今日は俺が代役しますね。一ノ瀬課長、よろしくお願いします」
少し幼さが残るイケメンさんだ。彼は私たちを交互に見ながら挨拶する。
私も挨拶をして頭を下げる。
「営業事務の都合で、ご迷惑をかけて申し訳ありません。本当に助かりました」
と、話していると、車の中から声が聞こえた。
「満島、引き継ぎが終わったなら会社に戻るよ」
運転席から、斉木課長が顔を覗かせた。