お前は、俺のもの。
「なにそれ。私に対しての憐れみ?同情?」
背後から聞こえた声に、私の肩がビクリと揺れた。そして斉木課長の視線を追って、振り向く。
白いシャツにスキニーデニム、赤いハイヒールを履いた川添穂香が立っていた。上から目線的な視線を寄越し、明らかに不機嫌にピンクの唇をくっと下げる。
「私は謝らないわよ。一ノ瀬梛に愛された代償だと思えば、怪我の一つや二つしてもお釣りがくるほどよ」
「川添さん…」
昨日の今日で、さすがの彼女も落ち込んでいるかと思いきや。
「私、周りから何を言われても平気だけど、あなたにだけは「かわいそう」とか「助けてあげたい」と思われたくないの。思えば一ノ瀬梛なんて、大した男じゃなかったのよ。女をリード出来ない男なんて、どの女からも愛想をつかされるわ。女を放置する男なんて、こっちから願い下げよ」
早口で捲し立てる川添穂香は、顔を赤くして唇を震わせた。
「私、今日でここを辞めるから私物を取りに来たの。いらないものを、ここで処分していくの」
そう言って、私に背を向ける。
「…一ノ瀬梛もいらないから……あなたにあげるわ」
川添穂香は小さく言い残して、エレベーターホールへと歩いていった。その後ろ姿は、背筋を伸ばして堂々としていた。
斉木課長は呆れたように笑う。
「彼女はとんだ女狐ちゃんだったね。あの調子なら、どこへ行ってもやっていけるよ」