お前は、俺のもの。
夕方、鬼課長はモデルルームの見学会から戻るなり、私を目配せして事務所の外へ呼び出した。
自販機でカフェオレを買い、私に手渡す。
「斉木課長を怒らないで。私が教えて欲しいとお願いしたの」
お昼休み、斉木課長は外出前に「満島」と呼んだ。
「梛くんから「喋りすぎ」と怒られたよ」
と苦笑していた。
鬼課長はブラックコーヒーのプルトップを開けて、
「凪が知らなくてもいいことなのに」
と拗ねている。
そんな彼に、私は首を横に振って見つめた。
「私は知って良かったと思う。思えば、みんな必死だったのよ。愛したい、愛されたい、自分を認めて欲しい…そんな感情をぶつけ合ったトラブルだったと思うんです。私も今回のことで、色々考えさせられました」
「凪は被害者だ。俺と関わったばかりに、周りから狙われる的になった」
鬼課長は私の髪をゆっくりと撫でる。
「市村係長から連絡があった。「申し訳なかった」と謝っていた。ここを辞めて、身内が経営しているお店を手伝うらしい。落ち着いたら川添を連れていくと言っていた」
静かに話す彼に、私は「え?」と驚く。
「川添さんを連れていくって…?二人はそういう仲だったんですか?今日、川添さんに会ったのに、そんなこと…」
「あの女狐は手の内なんかペラペラ言わないからな」
と、顔を歪めた。
手に持っていたスマホが着信を知らせた。相手は由奈からだ。私は鬼課長にも聞こえるように、スピーカーにした。
『凪さん、迷惑をかけてすみませんでした』
彼女の第一声に、鬼課長も私も目を丸くした。
私は彼女の胃腸風邪の容態を聞くと、
『今は落ち着いています』と元気そうな声がした。
「由奈ちゃん、メロンパンとお菓子ありがとう。美味しかったよ」
と、あの時のお礼を言う。
由奈は数秒ほど沈黙の後、話し始めた。