お前は、俺のもの。
「あたし、この会社に入社してから同期のみんなと馴染めなくて一人だったんです。それから、るみが話しかけてくれて仲間になっていったんです。だから、あたしはるみを裏切ることはできないです…」
小堺るみとずっと一緒にいるしかない、そんな口ぶりだった。
「凪さんの仕事を、なぜ私が引き継がなければならないのか。理由は加瀬部長から聞いていました。でも次々と増えていく仕事に、「凪さんはいずれ私に仕事を全部押し付けるんじゃないか」と不安になり、河野さんに相談したこともありました」
なるほど。それで由奈贔屓の河野くんは、あの態度だったのか。
「でも綾乃さんに言われたんです。「あそこまで後輩の面倒を見る先輩はいないよ」って。SNSの炎上のとき一番に心配してくれたのは凪さんだったのに、るみに見放されることが怖くて何も言えませんでした。ごめんなさい」
由奈の声は震えていた。
由奈は明日から総務の庶務二課に異動だ。彼女は新しい仕事を覚えていかなくてはいけない。同時に、自分も忙しくなりそうだ。
「凪さん、庶務二課の事務所が地下にあるって知っていましたか?社員はあたしを入れて四人だけなんです。石川係長に「しっかり反省してください」と言われましたが、反省ばかりしていたら性格が暗くなりそうです…」
由奈らしい発言に、鬼課長も私も小さく笑ってしまう。
「由奈ちゃん、時々営業部に遊びにおいで。由奈ちゃんがいなくなったら、私もまた忙しくなりそうだから、遊びに来た時に手伝っくれると嬉しいよ」
すると、スマホの向こうの由奈が「グスッ」と鼻をすする音を立てた。
「凪さん…あたし、また営業部に戻れるように頑張ります」
涙声の彼女に、私は「待ってるよ」と答えた。