お前は、俺のもの。
夕日で空がうっすらと赤くなる頃、私は二組のご夫婦を一階のエントランスで見送る。
「本日はモデルルームへお越しいただき、本当にありがとうございました。気をつけてお帰りくださいませ」
と、深く頭を下げる。
「満島さん、あなたもお幸せに」
藤川夫人が微笑んで私の右手をとり、両手で柔らかく包む。
その行動に、私は少し驚いて彼女を見つめた。
「そのペンのクローバーのチャーム。あのお部屋はすごく素敵で、いろいろ学ぶこともありました。でも一番に思ったことは、あのお部屋はあなたへの愛が…んんっ」
話し続ける藤川夫人の可愛らしい声が、ご主人の大きな手によって口ごと遮られた。彼女の手が、私から離れていく。
首を傾げる私の前で、
「ナツミの言いたいことはわかったから、それ以上は帰ってから聞いてやる」
と、ご主人はシルバーフレームを光らせてクールに受け流す。
桐谷夫妻も二人に苦笑しながらも「ありがとうございました」お礼を言い、四人は駐車場へと歩いていく。
──どちらも本当に仲のいい夫婦だなぁ。私もいつかは、あんなステキな夫婦に…。
頭の中で鬼課長の優しい顔を思い浮かべながら、モデルルームへと引き返した。