お前は、俺のもの。
二日間の見学会は終わった。このお部屋は家具付きのまま一ノ瀬不動産から販売されるため、会社の備品は全て撤去しなければならない。
アンケート用紙や筆記具、パンフレットなどを段ボールへ入れていく。数足のスリッパや簡単な掃除道具も他の段ボールへ片付けていく。
「一ノ瀬課長、雑誌や雑貨も持ち帰りますか?段ボールに詰めますよ」
と、ダイニングテーブルの上のマグカップやランチョンマットに触れる。マグカップは先日桐谷さんのお店で鬼課長に買ってもらった、あのクローバーのペアのマグカップだ。「貸してほしい」と言われて協力したのだ。
彼は「その必要はない」と、答えた。
「え?では、明日片付けますか?」
私の動きもピタッと止まり彼へ振り返る。
鬼課長は私のすぐ後ろに立っていた。
「その片付けは、お前の返事次第だ」
と、少し表情が固い気がする。
「あの、どうかしたんですか?」
と見上げると、彼はダイニングテーブルのペンダントライトを指す。
「このライトも、寝室のライトも、何故わざわざ特注にしたと思う?」
その質問に答えが見つからない私は、口を閉ざして鬼課長を見つめた。
それを悟ったのか、彼は「じゃあ、これは?」と、この部屋の見取り図をファイルから取り出して私に見せた。図面の隅に書かれた落書きに「あっ、それは!」と声を出した。
思い出した。前にダイニングの空間を、いつかの雑貨屋で見たライトを置いてみたいと思い浮かべて、あの落書きを書いたのだ。
実物と見比べてみる。
「…似てる」
ペンダントライトを見上げ、どうしようもなく嬉しくなる。
鬼課長もそれを見上げて呟いた。
「最初、これを作ってくれる工房が見つからなくて、正直焦っていた。このペンダントライトは、俺と凪を繋ぎ止める必要な餌付けだと思ったから」
「え…餌付け?」
キョトンと聞き返した私を見て、鬼課長はフッと笑う。