お前は、俺のもの。
綾乃と一緒に社員用セキュリティゲートを通って、社員通用口から外に出ようとした。
綾乃が一歩、外へ踏み出した足を慌てて戻して、壁際に隠れる。
「どうしたの?」
「一ノ瀬課長が女と一緒にいるの」
「え?」
綾乃と一緒に、再び壁からそっと覗いてみる。
まだ灯っているショールームの照明が、全面ガラスに下ろしたカーテンをすり抜けて、ほんのりとした明るさが二人を照らしている。
自分たちから少し距離があるが、顔がわからない遠さではない。
スラリとした細身の、高価そうな服を着た女性が、鬼課長に何か話をしているようだ。鬼課長も何か言っているようだが、笑っている感じではなかった。
「あの女性って…」
と、綾乃が呟く。