お前は、俺のもの。


「一ノ瀬課長の婚約者、千堂設備のご令嬢だね」

と、後ろからご丁寧に教えてくれた人がいた。

「あ、斉木課長。お疲れ様です」

営業部二課の斉木課長。既婚者で細身のイケメンさんだ。口元のホクロがセクシーで、私と同い年だというのに物腰柔らかな人当たりと「大人の男の色気」が悔しいくらいダダ漏れの男だ。
そして奥様も美人だという噂である。
斉木課長はニッコリ笑って「お疲れ様」と答えた。

「彼女が婚約者として現れた時、一ノ瀬くんは荒れてね。よく酒の席に誘われたよ。今は半分諦めてる、てとこかな」

私たちは初めて聞いた話に、斉木課長へ振り向いた。
「覗き見も良くないから帰ろう」と促され、三人で駅まで歩く。
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