お前は、俺のもの。
私は引き続き依頼されたデータ修正の入力をしていると、視界の端でミーティング室のドアが開くのが見えた。
先に出てきたのは、長身で黒髪をサラリと揺らした「鬼課長」だった。
逆三角形の瞳が一瞬こちらを見た気がしたが、すぐに後ろにいた加瀬部長へと振り返る。
加瀬部長は何だか冴えない顔をしていた。そして鬼課長から「では、明日からよろしくお願いします」と言われ、更に困った顔をしていた。
綾乃は「何かあったのかしら」と言いながら、加瀬部長宛の連絡メモを回収して、シルバーフレームの眼鏡を指でクイッと上げる彼へと持っていく。
彼女はすぐに戻ってきたが、困惑しているようだ。そして私をじっと見て言った。
「詳しいことはわかりませんが、加瀬部長が言うには、一ノ瀬課長が助手を欲しがっているようです」