お前は、俺のもの。
二十二時四十分。
「風鈴」でお腹を満たした私達。
綾乃と市村係長が電車の路線が同じだというので、
「市村係長、すみませんがよろしくお願いします」
と、プリンスにほろ酔い気分の綾乃を任せることにした。
市村係長が送り狼にならないか心配ではあるが、「ちゃんと送るよ」という言葉を信じるしかなかった。
「凪、自宅に電話しろ」
二人が改札の向こうへ消えて、鬼課長が私へ視線を寄越す。
私は当然「家族の人に駅まで迎えに来てもらうように言え」と言われると思い、
「大丈夫です。今までもこの時間に一人で帰っていたんですから」
と、笑って答えた。
しかし、鬼の頭に「ツノ」が見えた。
「大丈夫じゃねぇよ。スマホ出せ」
「……」
何が彼を怒らせたのか分からないが、私は恐れるまま震える手でスマホをタップした。
スマホについた四葉のクローバーのストラップが揺れる。
「もしもし」と、母の声が聞こえた。
「お母さん。遅くなったけど、今から帰るから」
と、伝えた。
母が自宅の最寄りの駅まで迎えに来てくれることになり、
「わかった。ありがとう」
と言うところが、言い終わらないうちにスマホが私の手から抜き取られた。
「もしもし、一ノ瀬です。先日は遅い時間にお邪魔して申し訳ありませんでした。今日はやむを得ず凪さんを残業せてしまいました。夕食は先ほど一緒にとりましたのでご心配なく。こんな時間になりましたが、今から凪さんを電車に乗せますので、よろしくお願いします。いえ、こちらこそ。おやすみなさい」
「……」
──目の前で二枚目俳優顔負けのゴージャス・スマイルを浮かべて母と電話してるのは、誰ですか。