お前は、俺のもの。
周りの視線が感じる中。
「お前ら、何をやってるんだ?始業時刻はとっくに過ぎてるぞ」
部屋全体に行き渡るくらいの大声を上げたのは、ミーティングルームから出てきた加瀬部長だった。その後ろには鬼課長も立っている。
その鬼課長は眉間にシワを作り、不機嫌な顔でギロリと何処かを睨んで歩いてくる。
その長い足は、河野くんの横に来て止まる。
──今の話を聞いていたのだろうか。
何が起きるのか予測できない二人に、内心ビクビクしていた。
鬼課長がポツリと、河野くんに言った。
「河野。昨日の見積書、三ヶ所も数字が違っていたぞ」
と、クスリと笑った。
「心配するな、こっそり直しておいた」と、鬼課長は河野くんの肩を軽く叩いて通り過ぎていく。
河野くんは悔しそうに顔を赤く染めて、無言のまま自分のデスクへ戻っていく。
意気消沈した彼に、小堺るみと由奈も各々のデスクへ戻っていく。