お前は、俺のもの。
「なに人の図面を覗き見してるんですか」
聞こえた低い声にドキリと心臓が飛び跳ね、顔を上げると、不機嫌そうな鬼課長がビジネスバッグを手に立っている。
「お、おかえりなさい」
慌てて声をかけてみた私。
しかし鬼の目線は市村係長に向けられたままだ。市村係長は眉を八の字にして鬼に話しかけた。
「一ノ瀬課長、お疲れ様。覗き見だなんて人聞きの悪いこと言わないでよ。満島さんの仕事を少し見せてもらっただけだよ。相変わらず素敵な空間デザインを描くなぁ、と思って」
「それはどうも。「自分の本当の欲」は描きませんけどね」
しっかり会話が聞こえていたようだ。私達は肩を竦ませた。
市村係長は私の肩を軽く叩いて、
「はいはい。僕は加瀬部長に用があったから気にしないで。一ノ瀬課長、僕は自分の欲を隠すことはしないよ。満島さん、またみんなとご飯行こうね」
と言って退散していった。
去り際に鬼課長と顔を合わせた市村係長はスラリとした後ろ姿だったけど、きっと笑っているんだろうと思った。
なぜなら、鬼が必要以上に眉間に深いシワを作っていたから。