死者の時間〜最期のメッセージ〜
あの日、朝日奈美紅は教科書全部を隠されたらしい。朝日奈美紅は必死に学校中に隠された教科書を探した。

「その時、桑原くんが声をかけてくれたんです。桑原くんが親から暴力を振るわれているのはこの学校では有名な話で、桑原くんとは関わるのを避けていました。でも、桑原くんは私に声をかけてくれました。そして、クラスも違うのに一緒に探してくれた」

二人で協力し合い、教科書は現代文のもの以外全部見つかった。しかし、すでに外は日が落ちて真っ暗だったそうだ。

「桑原くんは、「俺が探すからもう君は帰りなよ。これ以上遅くなったら危ないから」と言って階段を上っていました。その時に足を踏み外して階段から落ちてしまったんです。本人は「大丈夫」と笑ってまた探しに行きましたが……。でも、まさかあの後あんなことになるなんて……」

朝日奈美紅の目から涙がこぼれていく。お守りは、桑原陸人がその時に落としていったものらしい。明日渡そうと思っていたそうだが、その時すでに彼は遺体となっていた。
< 25 / 30 >

この作品をシェア

pagetop