結婚するには乗り越えなくてはいけない壁があるようです
半年前。
仕事にもだいぶ慣れ、私生活に目を向け始めた私は、昼休み、食堂で一緒になった先輩方から恋人の話を振られたのを機に、誰か紹介して欲しいと頼んだ。
『タバコを吸わず、違法行為をせず、真面目に働いていれば…あと、父親より年が上じゃなければいいです』
ストライクゾーンが広過ぎると笑われたけど、私はいたって本気。
愛し、愛される喜びを一度でいいから味わいたい。
可能なら結婚して、出来たら子供も欲しい。
『それなら俺と付き合うか?』
私の話を耳にして、公然と立候補してくれたのが彼。
嶋津尚(しまづなお)、38歳の外科医。
綺麗な肌にアーモンド型の奥二重、すっと通った鼻筋、薄めの唇、寝癖ひとつない綺麗な黒髪、長身で細身の抜群のスタイル。
笑顔を滅多に見せないクールな医師であっても、嶋津先生に恋心を寄せているスタッフや患者は多く、"自身や身内を任せるなら嶋津先生がいい"とスタッフに言わせるだけの腕がある。
頭脳明晰、容姿端麗、丹青之信。
当然私も初めて嶋津先生を見た時、目を奪われ、心をときめかせた。
ただ、年齢的にも個人的にも相手にされないだろうし、あまりに出来過ぎた、完璧な嶋津先生とは住む世界が違う気がして、好きになっても無駄だと恋愛対象から外していた。
嶋津先生自身が職場での恋愛はしないと公言していたのも大きい。
だから告白された時、周りにいた人も私も冗談だと思った。
でも、嶋津先生が冗談を言うタイプじゃないのは日頃の行いから明らかで、その場にいたスタッフに囃し立てられ、食事の約束をして、それから何度かデートを重ねた。
『年齢からして、おそらくそう長いこと恋人ではいないよ』
親しいスタッフの方から言われた通り、告白から4ヶ月余りでプロポーズ。
覚悟を決めていたから即決で結婚を決めた。