志鎌くんは笑わない。
そのクッキーと私を交互に見るふみくんは、何となくだけど困惑している気がした。
知ってるよ、ふみんくの好きな物くらい。
「お砂糖控えめの紅茶クッキー、ふみくん好きでしょ。これをコーヒーと一緒に食べるのも好き」
「これ美月の手作り?」
「もちろん。市販で売ってるものはふみくんのお口に合わないのばっかりでしょうが」
そう言いながらクッキーをふみくんの目の前に押し付けると、渋々とふみくんはクッキーを受け取ってくれる。
この瞬間が私とふみくんの手と手が一番近くなるってことなんか知らないんだろうけど。
もう少しで触れられる温もりだけど、私は自ら手を引っ込めた。
きっと知ってしまったら、その手を掴んで離せなくなる。
『約束』それが私達を縛り付けていなかったら、手に手を取ってちゃんと言えたかな。
にっと笑ってみせて反応を見つめるけれど、ありがとうの言葉しか返ってこない。
でも私はそれだけでいいんだ、今の私達の影は重なっているから。
影のふみくんの中に私はいる。