志鎌くんは笑わない。
棚にズラリと並べられた資料は、いつかはゴミになるんだろうな……などと考えていると、まっちーは窓際へと私の身体を動かした。
「ここ?」
「ほら!あそこ。志鎌くん」
「ふみくん?」
まっちーが指し示す方向にいたのは、私の幼馴染の志鎌 郁也(シカマ フミヤ)だった。
よくよく見ればふみくん以外にも、もう一つの人影が見える。
目を凝らすと赤いリボン、つまり一つ上の学年の先輩がそこにいた。
「なんと!告白現場です!」
「ほう……ふみくんモテモテなの変わらないね」
「新学期になってからこれで3回目だよ?!どうなってるの?!」
どうもこうも私に聞かれても、何一つ答えは出せないというのにまっちーは目を輝かせて聞いてきた。
私は苦笑することしかできなくて、もう一度ふみくんのいる方を見つめた。
「まあ……ふみくん顔“は”いいからね」
学年問わず女子生徒に人気があるふみくんは、顔はいい。
だけど、近づきにくい程の『無表情』なのだ。
素っ気ない上に、淡々としているその性格だが、クール系男子として女子のハートを掴んでいるらしい。
「そんな呑気なことばっかり言ってると、美月いつか志鎌くん取られちゃうよ?」
「取られるも何も、私とふみくんは友達だもん。別に困ることは何もないよ」
幼馴染でいつも傍にいるふみくんは、友達以外の何者でもない。
それはお互いが承知の上の関係なのだから。
「そんな強がってて、本当に取られて泣きつきに来ても慰めてやらんぞ?」
「大丈夫、大丈夫。泣くことなんてないから」
心が痛むことも、切なくなることも何も感じられないふみくんへの想い。
強いて言うなら彼の『無表情』に、少しだけ心がチクチクする程度だ。