志鎌くんは笑わない。
資料室からまっちーと共にそっと出て、教室へと戻る。
帰ろうと声をかけてくれたまっちーに頷こうとするけれど、はっと思い出して慌てて鞄の中からファイルを漁る。
「やば!数学のプリント出し忘れてた……!まっちー今日バイトだよね?この電車乗れないと間に合わないだろうし、先帰ってて!」
「わかった!また明日ね」
「また明日っ!」
そう挨拶を交わして、急いで職員室へと向かう。
数学教師の増本先生は、何かと面倒な人だからここは時間内に提出してぐちぐち言われるのを避けて早く帰りたい。
中練をしている運動部の波を、邪魔にならないようにすり抜けてチャイムが鳴るギリギリの時間に先生にプリントを提出することができた。
しかし時間内に提出したというのに、ネチネチした小言を喰らい職員室から出たらおかげでヘロヘロだ。
時計を見れば電車は出発する時刻を過ぎ、仕方なくバスで帰ることにした。
とぼとぼした足取りで昇降口へと向かう。
「あれ……?ふみくん?」
下駄箱に背を預けながら、スマホをいじっているのは先程告白されていたであろうふみくんがいた。
「誰か待ってるの?」
「美月のこと待ってた」
「え?なんで?」
「靴がまだあったから。それに梛浦は先に帰って行くの見たから、きっと一人だろうって思ったから」
淡々として答えるふみくんは、隙がないというかなんと言うか。
「予測が上手いね、ふみくんは」
パチパチと小さく拍手をして私はふみくんに笑顔を向けたけど、ふみくんは胸を張るわけでも得意げな顔をするわけでもない。
ただ、『無表情』のまま。
会話が一つ終わったことによりふみくんは動き出し、あっという間に靴を履き替えてしまう。
私はその後を追いかけるようにして、外へと向かった。