Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

次の日出勤すると、社内は何も変わらずいつも通りに時間が流れた。
瀬戸口もいつも通りのスタイルで、若い女子社員からは相手にもされていない。
私は、昨日のキスのせいで変に意識してしまい必要最低限の会話しかできなかった。



いつも以上に疲労困憊の中オフィスを後にすると、「翠ちゃん」と私を呼ぶ声がする。
ちゃんづけされるのは女の子の扱いをされているような気がして少し嬉しい。そして最近会った中でちゃんづけしてくれるのはただ一人・・・杉原さんだった。


目が合うと私は、思わずそらして歩き出した。
処女だとカミングアウトして嘘だと言った男にどんな顔をしていいか分からない。

「ちょっと待って・・・」
私の腕を強く掴み抱き寄せる。杉原さんの体温は今朝、瀬戸口が上書きをした。
瀬戸口は筋肉があるけれど、細くて折れてしまいそうな腰だった。
杉原さんはがっちりしていて安心感がある。
この温もりに抱きしめられれば瀬戸口の抱擁もキスも上書きされる。


「昨日は・・・あんなひどいこと言ってごめん・・・少し話できる?」

ああそんな風に優しい声で、囁かないで。ずるいよ。
清潔感のある洗剤の香りと、ほんのりタバコの匂いが染み付いた高級ブランドのスーツと100万以上する高級な腕時計。こんなハイスペックな男と結婚するために、私は友達を裏切ってまで勉強していい大学に入って、いい会社に入って、周りが結婚していく中、彼氏も作らずに一生懸命仕事して処女を守り抜いてきたの。
いつも野暮ったい髪型で、ラフな格好で出勤する瀬戸口とは正反対。
ちょっとイメチェンしたからって・・・・


「こちらこそすみませんでした。でも嘘じゃなくて本当なんです。今まで何人かと付き合ってきたんですけれど、痛くてできなくて・・・そこから」


「そうだったんだ。勇気出して教えてくれたのに本当にごめんね。」

もう一度、優しく抱きしめる。一瞬でも瀬戸口にときめいてしまった自分を殴りたい。



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