Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
「翠・・・この男誰?」
その時、二人の世界をかき消すように私の名前を呼ぶ。
私を呼び捨てするのは高校時代の友人か親ぐらい。瀬戸口だって私を名字で呼ぶはず・・・
はずなのに、私をそう呼んだのは瀬戸口だった。
そしてすぐに私を杉原さんから引き離し、強引に抱き寄せた。
「何か用ですか?俺の彼女に・・・」
「翠ちゃん、どういうこと彼氏なの?」
杉原さんが眉間にシワを寄せながら問う。冷静を装いながらも相当怒っている様子だ。
私は、この状況に慌てふためいてしまう。瀬戸口をやましいことは何も・・・いや昨日キスしている。
だからと言って、杉原さんとも正式に付き合っているわけではない。
そもそもどうして私が責められる立場なの?
「残念でしたね。翠の処女は俺が頂いてますので。」
「ちょっと・・・何言ってんの?」
「やっぱり嘘だったんだ。」
杉原さんは、気の抜けた声で言う。
瀬戸口は、私の手を強引に引っ張っていく。
この手を振り払って杉原さんの元へ行くのが正解なのかもしれない。でも私は瀬戸口の手を離さずに彼のペースに合わせて走っていく。今まではなんとも思っていなかった当たり前にそばにあった後ろ姿が、今日はやけに頼もしい。
杉原さんは大人だから、追いかけてくるはずないのに私たちはまるで鬼ごっこの鬼から逃げるかのように遠くへ逃げた。途中、運動不足な私は息切れして立ち止まってしゃがみこむと背中から汗がにじむ。
「どうして、あんなことしたの?」
私は、怒りと同時に涙がこみ上げる。息も上がり苦しい。
その言葉を塞ぐように、瀬戸口が強く口づけをする。昨日から確実に彼の様子がおかしい。
6年間ともに仕事をしてきたはずなのに全くの別人なのだから。
「俺が何年片思いしてたと思ってんだよ。あんな男に取られてたまるか!」
そう言い放った瀬戸口が顔を真っ赤にした。東京の星ひとつないネオンの灯る街角で確かに聞こえたその言葉に私は耳を疑った。