Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
その足で、泣く泣く親友のいる美容院へ向かう。
俺の親友の和哉は、美容の専門学校へ行き美容師になった。まだ就職して見習いの為、よくカラーやカットの練習に付き合っている。
「俺を思いっきりダサくして下さい。」
和哉は、「は?なに言ってんの?」とツッコミを入れる。
彼には、翠への片思いについてを隅から隅まで話している。本日のことも事細かに説明すると俺の慌てように腹を抱えて笑っていた。
「来るもの拒まず去る者追わず。黙っていれば女の子が付いてくる泰生が1人の女にこんなに苦戦するとはね。で、翠ちゃんはイケメンが嫌いで普通な男がいいと。あ、元彼めちゃめちゃ普通のやつだったんだもんね。」
「もう、なんなの?」
俺は、美容院を見渡し近くにいた女性スタッフのしていた銀色の細いフレームの丸メガネを借りる。
彼女はとても似合っているが俺がすると国語の教科書に出てきた文豪だ。
その姿を見て、和哉もメガネをかしてくれたスタッフも大爆笑。
そして、和哉はおもしろがってもともとセットしてあった俺の髪を元に戻し、無造作に髪をセットした。
「うん。最高にダサいわ。こんなにメガネ似合わないやついる?でも逆にこういう人いそう。」
鏡に映った俺は、良い言い方をすれば個性的なバンドの個性的なファッションを好むボーカリストのようで、悪言い方をするとファッションの方向性を間違えて空回りしてしまった高校生のようだ。
「でも、お前は普通に黒縁メガネにするとただの仕事できそうなイケメンに見えるからこれぐらいの間抜けそうな真面目そうな感じの方がいいんじゃね?話しかけやすそう」
そう、向こうから話しかけやすいを作れればいいんだ。
俺は、ダサダサ男を演じてみることにした。これで就活もし内定ももらえた。
第一志望の翠の希望していた会社に。
まあ、翠が合格しているとは限らないけれど。
でも、どこかで期待はしていた。あの真剣な目で会社説明を聞いていてここを受けない理由なんてないし、
あそこまで努力をする翠のことを落とす企業なんてないと勝手に確証していたから。
入社式の日、それぞれの部署を合わせると20名近くの新入社員が一室に集められた。
その中に翠がいないかを必死に探す。でも見つからない。
諦め掛けていたその時、目の前に翠が現れた。
髪をロングからセミロングにして、ハーフアップにしていた。個人的にハーフアップの女の子が好きだ。
ハーフアップでなくても翠のことが大好きだ。
今すぐに話しかけたいけれど、「チャラい俺」は完全に嫌われている。
相変わらずの適当なヘアセットと丸メガネでダサさをアピールすると、普段はこういう場で絶対に話しかけてくる女は俺に見向きもしなくてちょっと楽だけれど、ちょっと寂しい。
でも、今は翠が俺のことを見てくれればそれだけいい。
結局、その日に俺は話しかけることができなかった。
「何やってんだよ。せっかく同じ会社に入れたのに」
相変わらす和哉が俺に説教する。
「だって、可愛すぎて話しかけられない」
「ぼけっとしてると年上のイケメンの先輩に取られんぞ」
その言葉に俺は目を覚ます。確かに今日ぱっと見たところかっこいい先輩がたくさんいたし、翠ちゃんのことを狙っていると聞いた。これは早く次の手を打たなければ。