Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

自宅へ戻ると杉原さんが当たり前のようにうちのリビングにいる。
私が仕事を終えて帰ってくるのを待っていたようだった。

「遅かったな」とお父さんはいう。

「ごめん、残業長引いちゃって」
嘘をついた。平然を装って本当は動揺している。先程の出来事を細かく説明したら、真面目なお父さんは頭が火が出るだろう。
恋人のことをオープンに話す家ももちろんあるだろうけれど、我が家はそうではない。

「本当にお前のところは残業ばっかりだなー。お父さんは心配だよ」
とお父さんはため息をついた。

「それではこれで僕は失礼します。」
杉原さんは改めて私の両親にお礼をして深く頭を下げた。

「うん。またゴルフ行こうな」
というお父さんの言い方がこのゴルフでさらに親交を深めた気がして余計に両親に申し訳なくなる。

瀬戸口のように、過去に遊んでたような人ではなくて、真面目で仕事ができる杉原さんのような相手の方はきっと父は喜ぶのだと思う。

私は近くに車を停めているところまで見送ることにした。
どうやら私は先ほどの出来事にとても動揺しており、目が潤んでいたようで杉原さんは私を心配した。

ずっと優しくしてくれた瀬戸口のことが信じられなくなる。
大人の男に押し倒されたら身動きがとれなくなる恐怖にまだ震えが止まらなかった。
私は、まだ誰かとエッチするのが怖い。

杉原さんとなら大丈夫なのだろうか。
ダメだとわかっていながらも確かめたくなる。

あなたはどんな風に私を抱きしめて私にキスをする?

「なんでもないです。ちょっと仕事が立て込んでて・・・そういえばあんなに楽しそうなお父さん初めて見ました。私、一人っ子だし女だから、本当はああやって息子とゴルフとか行きたかったのかなって・・・」

下手くそな作り笑顔をする。
涙が出そうだ。

「あの子と何かあったんじゃない?」

やっぱりこの人は、人に気遣いができる分感が鋭い。

「別に何もないです」
なぜかむきになってしまう自分が嫌いだ。
でも、私は今までの人生で一番嫌だったんだと思う。
自分が大好きになった人が、自分が苦手とする後輩と体の関係になっていたことが。
それも、本人は覚えていない。
顔を見ていないと言い出す。

私は、こんなにも初めてが怖くて仕方がないのに瀬戸口とだったらいいって思ったのに・・・

あんな風に自分の脳内をおかしくしてしまうほどのキスを西木としたの?
キスの先を西木としたの?
私のことを頭で考えてた?
そんなの嘘に決まってる。

男はそういうのが平気なの?

杉原さんは少しドライブをしようと私を車の助手席に乗せた。


「杉原さんは、エッチする時相手の顔を見ずに他の女の人のことを考えながらできますか?」
唐突な質問に杉原さんはびっくりしていた。

「う~~ん。電気とか真っ暗にしたらできなくもないんじゃない?」

「そうなんですね。じゃあ、私とそれ試して見ませんか・・・?」

杉原さんは動揺した。


「おっと…とりあえずね、翠ちゃんにどうしても謝らなければいけないことがある…
俺は、既婚者なんだ。子供も一人いる。」


「実は翠ちゃんと会う前に、奥さんに浮気されて今は別居状態なんだよね・・・落ち込んでいる時に翠ちゃんに会って惹かれてしまったんだ・・・
だから、翠ちゃんが嘘をついていると勘違いしてしまったのもそのせいかな・・・
本当にごめんね。このことは今日お父さんにも正直に話してあるから安心してね。翠ちゃんの家までついてきてしまったのはどうしてもそれを伝えたかったからなんだ。だから、俺は翠ちゃんのことは抱けない・・・」

私は思わず倒れそうになる。こんなに恥ずかしいセリフを言ったのにこんな仕打ちが待ち受けているとは。
どおりで帰宅してお母さんがよそよそしいし、お父さんも目を合わせないわけだ。

「翠ちゃんとは片手に数えるくらいしか会っていないけれど簡単にそんなことを言うような子じゃないと俺は思ってるからきっと何かあったんでしょ?あの彼と・・・」

私は今日に至るまでの経緯をポツリポツリと話す。
杉原さんは黙って聞いてくれた。
そして、杉原さんが奥さんに浮気された経緯も教えてもらった。
仕事が忙しく、残業も出張も多い杉原さんは、家事に育児に追われる奥さんを一人にすることが多かった。

しかし一切文句も言わずに、帰れば温かく優しく迎えてくれる奥さんに限って浮気なんてするはずないと思い込んでいたそうだ。
ある日、出張が早まって帰宅した自宅のベッドで二人が裸で眠っていた。
過去の恋人同士で、連絡を取り合うようにあり何度か人目を盗んでは会っていたらしい。
杉原さんがショックだったのは、セックスをした事実ではなく奥さんの気持ちが元彼にいったと言うことだ。


「俺は、既婚者でありながら翠ちゃんが好きだった。不倫されたショックでとかではなくて、翠ちゃんに惹かれていたんだと思う。」


「俺はその瀬戸口くんの翠ちゃんへの気持ちを信じた方がいいと思う。
あんなに何年も好きでいてくれたんでしょ?
イケメンだし、女絡みの忘れたい過去だっていくつもあると思うよ。
翠ちゃんはそれが嫌かもしれないけれどいろんな経験してきた分、
本気で幸せにしてくれると思うよ。
俺が言えたことじゃないけどさ・・・」

私は頷きもう二度と会わないことを誓って握手した。
例え、一線を超えていなかったとしても恋愛感情がないといったら嘘になる。

これは「不倫」の類なのだから。

それでも、杉原さんとの出会いが私の本当の気持ちを確かめるいい機会になったのかもしれない。
瀬戸口にしっかり謝って彼の気持ちに向き合いたい。


私は瀬戸口が好きだ・・・・・


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