Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

何度か、連絡を取り合い食事に誘った。
毎度のことながら、会うのが楽しみで仕方がない。30歳のくせに初めての恋をしているようだ。
居心地がいい、ずっと一緒にいたいと感じてしまう。
それは、心春に裏切られた傷口に染み込んでくるから余計にそう感じてしまうのか、心春に出会うまでに出会っていたらきっと俺はこの子と結婚したいと考えるくらいだった。

これがある意味不倫のテンションというものなのかもしれない。
よくワイドショーでいつまでもやっているような芸能人の不倫の特集や、会社の誰かと誰かが不倫しているみたいな噂を耳にするがいつも無関係だと思っていたし、そんな話はつまらなかったしいい大人が気持ち悪いと思っていた。
いわゆる俺は浮気された側の夫「サレ夫」の立場ではあるけれど自分も密かに恋を楽しんでいる。
妻と子供と離れ離れになっているはずなのに申し訳なさなど一切なくて、背徳感ゆえなのかワクワクしてウキウキしている気持ちの悪い自分がいる。結局俺も当事者の一人。

目の前の翠ちゃんが可愛すぎるから、癒されるから。
ウザがらない程度に、忘れられない程度に誘う。押して引いての駆け引きを高校生の恋愛のように楽しんでいる。
手も繋がな異様な初々しい恋愛だ。この歳でこんな経験ができるのなんて思ってもみなかった。
超えては行けない一線に近づいてみたり、離れてみたり悪い遊びをしているようだ。
俺の仕事が忙しくてよかったと思う。
もしも、暇な仕事をしていたら四六時中、翠ちゃんのことを考えてしまいそうだから・・・


久しぶりに食事に誘った、翠ちゃんはまた綺麗になっていた。
それでいて俺と会うためにオシャレをしてきてくれると少し期待してしまう。
いつも以上に酒に酔っている様子の翠ちゃんは白い肌を赤らめて目をトロンとさせている。


強引に誘えばこの体を抱けるかもしれない。
でも、この線を超えたら俺は心春と同罪。心春のことはもう責められない。
しかし、翠ちゃんが俺を既婚者だと知ったならどう思うだろう。

それでも、もう止められない。
こんなにも可愛らしくて、愛おしいこの子を今手放したらもう二度と出会えない気がしてならないのだ。





「この後どうしようか……」
こういったらどんな反応をするだろうか。
まだ一度も好きだなんていったことはないのに。帰りたくないし、帰したくない。
俺の手を翠ちゃんは白くて細い指でぎゅっと握った。

俺は、何も言わずに私の手を優しく握り返し指と指を絡ませた。

(緊張してるのかな?)

「翠ちゃん・・・どうしたの?酔った?」
ちょっと意地悪を混ぜてみる。あくまで俺からは誘わないスタンスと見せかけてもその体に触れたくて仕方がなくなる。

翠ちゃんの細い腰に手を回して体を密着させる。
甘い洗剤の匂いと、柔らかい肌にもう理性は抑えることはできない。

(ああ、もう無理・・・)

腰やお尻、太ももに優しく触れていくと、恥ずかしそうにする姿にまたそそられてしまう。


「帰りたくないってこと?」
耳まで赤くした翠ちゃんをホテルまで誘導するも、ホテルを目の前にすると翠ちゃんの顔色が青白くなっていく。
もしかして、飲ませすぎてしまっただろうか。何か言いたそうなそぶりを見せたので立ち止まると。

「あの・・・一つだけ伝えておきたいことがあります。その・・・私、初めてなんです・・・・」

翠ちゃんは、まっすぐに俺をみた。今まで一緒に過ごしてきて嘘をつくような子ではないこだとわかってる。
だけど・・・・


「いや、ありえないでしょ。28でしょ。それにそんな遊んでそうな感じで?翠ちゃんってそういう嘘平気でつく人なんだね。俺、嘘つく女が一番嫌いなんだよ。」


(こんな言葉しか出てこない。こんな言葉で誤魔化した。
ダメだよ。君みたいなこんないい子の初めての相手が俺みたいな男じゃ・・・妻子持ちのクズ男じゃ・・・)

翠ちゃんは潤んだ目で俺をみてすぐに走り去っていた。追いかける資格は俺にはない。
もう二度と目の前に現れないでほしい。これ以上好きになったらもう戻れなくなる。

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