Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

プロポーズ(今泉翠)


恋がうまくいけば仕事が楽しい。
普段は、目くじらを立ててしまう若い子達の言動も一切気にならずなんならいいところ探しをして褒めているぐらいで、今の時代褒めて伸びるタイプの子が多いせいか、彼女たちも仕事を一生懸命するものだから全てにおいていい方向に回っていた。

あんな自分の恥ずかしい姿をさらけ出してしまってからと言うもののますます泰生とと職場で会うのは気まずいが、それ以上に嬉しさが優った。

1秒でも長く会いたいよ。
こんなに出勤するのが楽しみなのは入社してから初めてかもしれない。
家から、会社までたどり着くまでも音楽を聴きながら軽やかに踊り出したい気分だ。
見える世界が全部明るく見える。


「翠・・・後仕事どのくらいで終わる?」

「あと、これチェックしたら」

「わかった。じゃあ、もうちょっと仕事してる。一緒に帰ろう」
周りには聞こえない声でボソッと囁いた。その低くて優しい声にゾクゾクとしてしまう。

今までも、社内でよく話していた私たちは、少し会話が増えようが誰も怪しむことはなかった。
バレても構わないけれど、少し秘密にしているのは楽しい。
でも、最近は少しバレてほしいとも思う。


「瀬戸口さん、超カッコよくない?」
「やばいよね~オシャレだし」
「今まで知らなかったけど、サロモ(サロンモデル)とかやってたらしいよ。本当の姿隠したとか何その設定」

と噂をする若い女子たちに少しだけ焦りを感じてしまう。
でも、笑顔でいつも迎え入れてくれる彼だから安心してもいいかな。
自分が彼女だと胸を張っていてもいいかな?

どちらかの休日の前の日は、一緒に夕飯を食べて抱き合って泊まらずに自宅に帰った。
家に帰るのが面倒だし、離れるのが辛いから一緒に暮らせたらいのになんて思いながらも、まだ親には彼氏の家に泊まるとは言えないアラサーの私。
ギャルの私を否定した通り、クソが着くほど真面目な父は、過去に大学の友達が彼氏と同棲しているという話をしたら、「結婚する前の同棲は認めない」と怒りながら言っていたことを思い出す。
だからと言って、結婚を私から臭わせるのも違う気がする。



「翠・・・今度の休みに有給も使って温泉行こう。」
「流石に二人で同時に有給とったらバレない?」
「俺は、バレてもいいけど。」

(おう、そう来たか)

「お前、入社当時からだけど男に狙われてんだよ~~」
そういって私のほっぺを片手でムニムニとする。

「それは泰生もだからね。」

「うわ~~ヤキモチ妬いてくれるの~~可愛い~~~」
そのまま顎を抑えて、キスをする。

気がつけばこのキスが大好きで、抱きしめてくれるときの腕も、声も笑顔も愛しくてたまらない。

「翠・・・俺・・・翠とずっと一緒にいたい・・・この部屋で一緒に住もうよ。そうしたら毎日一緒に居られるじゃん。」

「・・・」

私は目を合わせずに回答に迷う。
喜んで返事をしておけば無難だ。仮に一緒に住むのが先になったとしても不自然ではない。
父に言われていることを言ったとしたならば、強引な逆プロポーズをしているみたいだ。それは避けて通りたい。


「ごめん・・・変なこと言って・・・忘れて」
泰生は、悲しそうな顔をした。


「違うの・・・」

「何が?・・・」

「その、嫌ってわけじゃなくて・・・今、実家だし家出たことないし、一人娘だし・・・」

泰生は、手で顔を覆い「そっか・・・そりゃそうだわ・・・・」と言いながら私を見つめた。


「翠、今度お父さんに挨拶に行きたい。結婚前提に付き合わせて下さいって・・・・」

泰生は、私の薬指に触れながら言った。その手が温かい。

「俺は本気だからね」

私をまっすぐに見つめて頬にキスをした。


「そうしたら、もう友達の家に泊まるなんて嘘つかなくていいしね。」
泰生はにっこりと笑った。
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