Bloody wolf
ー晴成sideー



「くそっ!」

足元に転がっていた空き缶を忌々しげに蹴飛ばした。

暗がりに響き渡る甲高い音。

俺の苛立ちがそこに、現れていた。


響を乗せた車が消えていった先を睨み付ける。


夜叉の事を片付けて、後処理もようやく終わり響に会おうとやって来たのに、あいつは迎えに来た男の車に乗り込んで居なくなった。


どうしてこんなにも苛つくんだ。


響の連絡先も通ってる学校も分からなくて、ここに訪ねてきたら会えるとやって来た。

ストーカーかよ、と自分に突っ込んだりしつつ待ってたらこれだ。

声すら掛けられずに他の男に連れ去られる響を見送るだけなんて、らしくねぇ。



「・・・チッ」

マジでうぜぇ。

握り締めた拳をデニムのポケットに乱暴に突っ込んで、来た道を足早に戻る。


苛立つ俺を雲の切れ間から現れた満月が照らし出す。


うぜぇ・・・鈍く光それを睨み付けた。

あぁ、何もかもうぜぇ。




不貞腐れたように歩く俺の横に、ゆっくりと近付いてきた車が横付けされる。

「不機嫌そうに歩いてないで乗ったらどうですか?」

助手席の窓を開けて声をかけてきたのは秋道。

無言で後部座席のドアをかけて車に乗り込む。


「・・・・・」

「機嫌よく出ていったのにどうしたのですか?」

後部座席に深く座った俺を助手席から振り返って見据えた秋道は、不思議そうな顔をしてる。


「うっせぇ、何にもねぇよ」

「そうですか。何も無いようには見えませんがね」

そう言いながらも、秋道は話を止めて前に向き直る。

しつこく聞かれても、迷惑なだけだし、調度いい。


「戻りますか?」

溜まり場には戻りたくなくて、

「いや、クラブへ向かえ」

と返す。


この苛々もモヤモヤした気持ちも吹き飛ばしたい気分なんだ。

クラブなら、適当な女も見繕えるだろう。


心の中に溜まったフラストレーションを解消するのに、手っ取り早い方法を選択する。

溜まったら吐き出せばいい、単純なことだ。


「了解しました。クラブへ」

秋道は俺に返事した後、運転手へ行き先を指示した。


静かになった車内。

俺は腕組みをして目を瞑る。


派手じゃない車で響を迎えに来た男は、歳上に見えた。

普通のなりをしていたが、俺を睨み付ける視線は常人のそれじゃなかった。


あいつはいったい響のなんだ?

自分に近しい目をした男が自棄に気になっていた。
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