Bloody wolf
「では、きつめの酒とビールを」

秋道はボーイにそう頼むと、鞄からiPadを取り出して操作を始める。

俺はポケットから取り出した煙草をくわえると、火を着けた。


立ち上がる紫煙は薄暗い天井へ向かってふわりと立ち上がっていく。

俺達の席の周りに遠巻きに出来た女の群れ。


自分を選んで欲しいと、それぞれが視線を向けてアピールを続ける。

面倒癖ぇ・・・そう思いながらも、今夜の相手を物色する。


特別席のソファーに呼ばれることをここにいる女は全て望んでる。

この場所に座れることがこのクラブでのステータスなんだと、ちまたで噂だ。




冷めた視線をゆっくりと移動させ、綺麗な女を探す。

相手に選ぶなら、綺麗な女の方がいい。


俺と目が合うだけで、頬を染める安い女ばかりで辟易とする。


あいつなら、きっと挑戦的な目を返してくるに違いねぇのに。

ただ、響の視線に映りたいと思っただけのはずが、他の男といるところを見て、こんなにも苛立ってるなんてな。


面倒癖ぇ・・・。

俺に媚を売る視線を向ける女も、その女の中から遊び相手を選ぼうとしてる俺自身も。


足を組み、ソファーの背もたれに深く体を預けて、周囲を見渡した後、静かに一人に目を止めた。

響と同じ髪型をした女。


髪型以外あいつとは似ていないけど、胸の奥にあるモヤモヤした何かを吐き出すならあの女でいい。

諦めと妥協を決め込んで、視線で女を呼んだ。


嬉しそうに顔を綻ばせて近寄ってきた女を隣に座らせた。

「ありがとうございます。(さき)って言います」

なんの礼だか、と思いながら、女の腰に腕を回して抱き寄せれば、周囲に悲鳴が上がる。


女は優越感に浸ったように口角を上げて、俺の胸元に頭を寄せた。


「飲みたいものがあれば頼め」

体を差し出す女に、いつも言う言葉。

「はい。私、カルーアミルクが飲みたいです」

上目使いで俺を見上げる女。

「秋道」

俺は女に返事を返さずに、秋道へと目を向ける。


「分かりました」

秋道は手慣れた様子でボーイを呼びつけると、女の飲み物を頼む。

初めに頼んだ酒が運ばれてくるのと同時に、煙草を灰皿に押し消してグラスを手に取る。


それを一気に煽れば、度数の高い酒が喉に沁みた。

でも、今日は何杯飲んでも酔えそうにねぇな。

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