Bloody wolf
ー晴成sideー


秋道に投げ掛けられた言葉の意味も分からないまま時間だけが過ぎていた。

苛立ちとモヤモヤは募るばかり。


どんなにいい女を抱いても、一向に晴れる気配を見せないそれに悩まされていた。

鈍い鈍痛が持続的に続く。



「晴君、何時もに増し険しい顔ね」

ベッドの上で素肌にシーツを巻き付けた女が、ベッドサイドに腰かけた俺の背中にすり寄った。

くわえた煙草から紫煙がゆるりゆるりと立ち上っていく。


苦い後口に眉を寄せた。

煙草を灰皿に揉み消して顔だけ振り返れば、俺の素肌に顔を寄せた女が妖艶に微笑んだ。


「沢山、気持ちよくさせてあげるから楽しも」と。

「・・・ああ」

学生服のスラックスを履いたまま女に覆い被さった。


甘く誘惑する香りを漂わせたこの女は、一ノ瀬葉月(いちのせはづき)と言うCLUBDIVAのホステスだ。

俺より五つ年上のこいつが女を知るきっかけになった女。

後腐れもなく、互いの体だけを求める。

時おり、こんな風にホテルで待ち合わせて体を重ねて来た。

男慣れした唇が、俺のそれと重なるのを合図に夜の宴が始まる。


男の体を知り尽くした葉月のテクニックは間違いなく最上級だと言えるだろう。


「あら? まだ考え事?」

ウフフと笑った葉月は、俺の体を押し倒して馬乗りになった。


「忘れるぐらいに楽しませてくれよ」

口角を上げて挑戦的な瞳を向けた。

「了解。私の体で天国にイかせてあげる」

葉月は自分の唇をペロリと見せつけるように舐めると、シーツの中へと潜っていった。


忘れさせてくれ、このモヤモヤした言い様のない気持ちを。



部屋に充満する水音と艶かしい香り。

葉月の付けた香水が、汗で蒸せ返る。

葉月はゆるりと口角を上げると俺に跨がった。
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