Bloody wolf
「な、なによ。自分は仕事仕事でまともに育児に参加もしなかったくせに」
母親も顔を赤くして応戦する。
あ~また、始まった。
本当に面倒臭いなぁ。
「今、言い合うのは止めて貰える? まだ話の途中なんだけど」
腰に手を当てて二人を感情のこもってない目で見据える。
「か、解散の話か?」
そう聞いてくる父親に、
「そう、解散のこと。二人が離婚しなかったのは世間体のためだよね?」
問い返す。
「そ、そんな事はない。僕達は響の事を思って」
「そう、じゃあ、私は明日ここを出ていくから解散で良いよね。離婚の話し合いは二人でやって。養育権がどちらになって、養育費をどちらが払ってくれるのか連絡してくれれば良いから」
もう、話は終わりだと背を向けて歩き出す。
「ひ、響ちゃん、どういう事なの?」
母親のヒステリックな声に振り返る。
「私の受験した高校はこの街には無いんだよね。だから、ここに住む意味がないの。住む場所も引っ越しの準備も出来てるから出ていくね」
ただそれだけの事だから。
第一さ、娘が受験した高校も知らないよね? 二人とも。
「響、そ、そんなお金どこから」
お金の心配なの? お父さん。
「二人より、親身になって私を心配してくれるお祖父ちゃんが居るからね」
それすらも知らなかったよね?
母親が縁を切ってるはずのお祖父ちゃんが私をいつも見守ってくれてたなんて。
「お、お祖父ちゃん? あなた、どういうこと?」
「うちの両親は何も言ってなかったぞ」
ほら、二人は意味がわかってない。
「嶺岸のお祖父ちゃんだよ。二人が来ない学校行事にもいつも参加してくれてたんだよ? 知らなかった?」
私の言葉に驚愕の表情を浮かべた二人は次第に、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「じゃ、今度こそさようなら。15年間ありがとうございました」
深々と頭を下げてからリビングを後にした。
何も言えない両親の視線を背中にひしひしと感じたけれど、私が振り返る事はもう無かった。
これで終わり。
ジクジクと胸の奥で燻ったなにかに、苦しくて生きづらかった生活とも、終わりなんだと言い聞かせた。