Bloody wolf
「やっぱり、心ここに有らずね」

ベッドにうつ伏せた俺に、葉月は笑う。

「・・・・・」

「あんなに気持ちよかったのに、晴君の気持ちは誰かさんが掴まえたままなのね。その子が羨ましい」

葉月は少しだけ寂しそうに笑う。

俺達の間に感情なんてないはずなのに、そんな顔をされても困る。


「···もう、帰るわ」

「え? 晴君どうしたの?」

戸惑うような葉月の声を聞きながら、ベッドの下に散らばった服を集めてバスルームへ向かう。


ダメだ・・・苛立ちが消えねぇ。

素人より、葉月ならなんとかなるんじゃねぇかと思ったけど、結局残ったのは苦味だけ。


バスルームで熱い目のシャワーを頭から浴びる。

鈍い鈍痛が俺を更に苛立たせた。


「くそっ・・・なんだよ、これ」

バスルームの壁を拳で殴り付けた。

じわりと滲む血を見ても、痛みを感じる事はなかった。



あの日以来、響に会いに行ってねぇ。

また、他の男と居るところを見たら、このイライラが爆発するような気がして。

あいつのあの瞳に映りてぇと思うのに、今の俺は何をしてんだ?


他の女をがむしゃらに抱いて、憂さ晴らしなんてしても何にも変わりゃしねぇのに。


「・・・会いてぇな」

漏れた本音。

たった一度、一時間も会ってねぇ女に会いたいなんて、なんだよ、これ。


あ~くそっ、激しく打ち付けるシャワーを見上げた。

顔に降り注ぐ湯が体を伝って落ちていく。


さっきまで欲情していた気持ちがスーっと静かに引いていった。

こんなことやってねぇで、会いに行くしかねぇな。


響に会えば何か分かる・・・そんな気がした。


あいつは、今の俺を見たらきっとバカにしたように笑うんだろうな。

下半身で生きてる男なんて糞だ! と言いそうだな。


ククク・・・浮かんできた響の冷たい瞳にゾクッと背筋が粟立った。

あいつを手中に納めたら面白しれぇだろうな。


俺に媚を売らない、色目を使わない女が、この手に入ったら、きっと楽しくて仕方ねぇ。

そう考えたら、ワクワクしてきた。


モヤモヤしてたものがぶっ飛んで、高揚してくる気持ち。

ああ、これか。

秋道が言ってたのは・・・・・。


俺は響が欲しい。

あの気だるそうに俺を見つめる瞳が欲しいんだ。

こんな簡単な事に気付かなかったなんてな。
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