Bloody wolf
シャワーを浴びて戻ると、葉月はまだベッドの中にいた。

俺を見つめる瞳が不安げに揺れてるのを見て、こいつはもうダメだと見切りをつける。


こいつからの恋愛感情なんていらねぇ。

まぁ、響を手に入れる為に、こんなバカな遊びも、もう終わりだけどな。


葉月だけじゃなく他の女も要らねぇ。

俺が欲しいのは響だけ。

素性も知らないあの女、ただ1人が欲しい。



「葉月、お前とは今日で終わりだ」

テーブルの上の財布を手にとって、数枚の一万円札を取り出してそこに置く。


「晴君、私、何か気に入らないことした?」

シーツを体に巻き付けてこちらへと走ってくる葉月の顔は完全に女の顔だ。


「いや。お前だけじゃねぇ。俺が欲しいのはたった1人。そいつを手に入れる為に、全力投球しねぇとな」

ゆるりと上げた口角。

響との追いかけっこが始まる予感に気分が高まる。


「私、二番目でも良いのよ」

無理して大人の女を装う葉月。

こいつってこんな女だっけか?


自棄に冷静な俺がいた。

中1で葉月と体を繋げて、たまにこんな風に遊んできたけど。

こいつが追い縋るなんて思いもしなかったな。


大人の余裕を見せつけるように俺と体を重ねていた葉月。

本当は、弄ぶ振りをしてただけなのかも知れねぇな。


「俺達は割り切った体だけの関係だったよな?」

低い声でそう言えば、

「そ、それは・・・そうだけど」

悔しそうに唇を噛み締めた。


「だったら終わりは綺麗に終わろうぜ」
 
「・・・わ、若い子は、ほらテクニックがないし。晴君がつまんないんじゃないかと思って。私なら満足させてあげられるし。だから、切らなくてもいいんじゃないかなって」

言い訳がましい葉月に、溜め息を落とした。


「他を相手しながら狙える奴じゃねぇんだよ。本気でかからねぇと俺が食い殺される」

そう、響はそんな女。

噛みつかれたら一溜まりもねぇだろうな。


考えるだけで楽しくて仕方ねぇな。

やべぇ、顔に出ちまう。


「・・・分かった」

響の事を考えて顔を緩めた俺を見て、葉月は寂しそうに了承した。


「じゃあな」

もう会うこともねぇだろ。


背中を向けた俺は、俺の背中を見つめる葉月の顔が般若の様に歪んでいたことを見逃していた。


それが後々に、災いを起こすとも知らずに。
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