Bloody wolf
自宅に戻っても、気持ちはあんまり落ち着かなくて。

久し振りに夜の街へと踏み出した。


七分パンツにTシャツ、お決まりのパーカーを着てフードを深く被る。

ポケットに財布とスマホと鍵だけを忍ばせ、街をふらつく。


別に目的は無いけれど、気分転換にはちょうどいい。


パンツのポケットに両手を突っ込み、俯いて歩く姿は夜の街に溶け込む。

街灯の照らす歩道をゆっくりと進めば、帰宅途中のサラリーマンと擦れ違った。


危ない奴だと思われたのか、大袈裟に避けられた。

心外だな、別になにもしないのに。


金曜の夜ともなれば、夜の繁華街は賑やかで。

飲み会やら合コンやらに出掛ける人達の姿が溢れてた。


人通りの多いそこを通り抜け、一歩路地へと足を踏み入れれば、閉店した店先のシャッター前に、若い子達がたむろしていた。

ヤンキー座りして煙草を吸う者もいれば、キャッキャと騒いでる者もいる。


誰も通りすがる私の事なんて気にしない。


それがなかなか楽だった。

昼間に学校であれだけの視線に晒されたから、今は視線に囚われなくてちょうどいい。


時折吹く風にはまだ少し肌寒さは残るけど、こんな夜もいいと思えた。

昼間に過熱した熱は、もうすっかり成りを潜めてる。

戦いの予感に血が沸き立つなんて、私もまだまだだ。


辞めたはずの格闘技で培った闘志は、どうやらまだ廃れてないらしい。

久し振りに暴れてみたいな。

ここのところ、体が鈍ってるんだよね。



「ねぇねぇ、今日はウルフ、走るんでしょ?」

「メイン通りに歩道橋に見に行こうよ」

「おお、行こうぜ」

「暴走が何時からか知ってるか?」

「23時ぐらいだって、友達が言ってたよ」

路肩でたむろしていた学生達の話し声が耳に届く。

額服のままの集団にチラリと視線を向ける。


そんな格好でいたら補導されちゃうよ。

地面に座ってる男女5人はやたらと盛り上がってる。


晴成達が現れるらしい。

見つからないうちにさっさと帰ろうかな。


来た道を戻りかけて、聞こえてきた爆音に足を止めた。

ヤバッ・・・登場早すぎじゃない?


「ウルフじゃない?」

「キャ〜晴くんみたい」

「あっちだ」

慌てて動き出した学生達は、音のする方へと走っていく。

私はそれとは反対側へと歩き出す。


急いで走っていく若い子達の流れに逆行する。

擦れ違う人達は、ウルフを一目見ようと躍起になってるらしい。

「・・・凄い人気」と呟いた私の声はざわめきに掻き消された。
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