Bloody wolf
何台ものバイクが通過し、中央の黒い高級車を取り囲む様に走る一団が現れた。


見覚えのあるその車に、体を看板へと更に近づけ隠し、パーカーのフードを深く被るように引き寄せた。


きっとあれに乗ってるのは晴成だ。

見付からないように、そっと看板の影から覗いてる私の目に映ったのは、険しく眉を寄せて正面を見据えて座る晴成の姿。

一陣よりスピードを落として走る車の窓は全て開いていて、彼がここに存在することを知らしめていた。


周囲で沸き起こる歓声。

追い掛けてきたであろう人達が、手を叩いて囃し立てる。


「キャー!」

「晴君」

「秋道君」

「光希~」

思いのままに口にする名前。

女の子達が色めき立っていた。


ふ~ん、かなりの人気だね。

一瞬でも自分のことを目に映して欲しいと躍起になってる女の子のパワーは凄い。


車の後部座席に乗る晴成はそれに反応する事なく、ただ前だけを見据えて通りすぎていった。

最後の一台が通り終わると、特攻してきたバイクに乗る少年が、四方に停まる車に頭を下げてから動き出した。


大きくなるサイレン、パトカーの一団はすぐそこまで迫ってる。

彼はアクセルを限界まで回すと、フルスロットルで前方を進む集団を追い掛けていった。


遠くなっていくバイクのエンジン音、迫るサイレン。

オレンジや赤のテールランプの光が、喧騒を連れ去っていく。


熱気の冷めやらない人々が、興奮した様子で暴走の余韻に浸っているのを横目に、私は再び歩き出した。


初めて見た暴走に、少しだけ興奮してる私が居る。

あんなに楽しそうに生きてるウルフのメンバーを少し羨ましく思えた。


生きることの意味を彼らは知ってるのだろうか。

私の知らないそれを。



パンツのポケットに両手を突っ込んだまま、背中を丸めて歩く私を見止める者は居ない。

上手く景色の1つに同化できてる自分に自嘲する。


月明かりを頼りに路地を進み、たどり着いたのは大きな川が流れる河川敷。


橋の掛かるそこに人影はない。

ゆっくりと足を進めながら、橋桁を渡り始める。

車道に沿うように設置された歩道を中央付近まで歩く。

川を渡る風が体にまとわりついてくる。


辺りを包み込む闇が少し怖いと感じた。

川の流れる音に足を止めて、欄干に掴まり下を覗いてみる。


黒く染まる川の流れに吸い込まれていしまいそうな気がした。
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