いつか、きっと。
恋と愛の狭間で

高校を卒業して私は就職、友也は大学生になった。

高校卒業までで私たちの"偽者恋人"の契約期間が終了の予定だったけど、その契約は延長されることになった。

無期限で。

もしかしたら契約解除されてしまうのかと不安もあったから、契約更新されて良かったとは思ってる。

だけど両手を挙げて喜んでいるのかというと、そういうわけでもない。

なぜなら、ちょっとだけ期待してしまったから。

高校卒業と同時に、偽者も卒業できるんじゃないかって……。

『俺が彼女にしたかって思うとは明日美しかおらん』

友也は私にそう言ってくれて、嬉しかった……。

友也の彼女でいられるのは私だけなんだって。

だけど『偽者じゃなく本物の彼女になって』と言われたわけじゃない。

だから付き合っているとはいえ、私たちの関係は未だに"友達以上恋人未満"でしかないのだ。

しかも大学生と社会人では立場が全然違う。

これからはお互いに新しい環境で未知の世界が待っているんだし。




就職して入社式の翌日からは、新人社員研修。

先ずは社会人としての心構えについて教えを受けたり、会社の説明などを聞かされた。

会社の経営方針や理念、社是・社訓についても熱く語りかける社長の言葉を一言一句漏らすまいと耳を傾けた。

しかし難しい言葉ばかり出てくるので、内容をどの程度理解できたのかわからない。

「あー、つまんねぇ」

隣の席に座っていた男の人が小声で囁くように呟いた。

私より年上には見えなかったから、多分同じ高卒なんだろう。

就職試験を受ける時に"J商とN商から一人ずつ採用したい"と聞いていたから、N商の卒業生なのかな。

見た目だけでは真面目で大人しそうな雰囲気なのに、こんな場所でも思った事を口に出せるなんてイメージにギャップが……。

私は私なんだから、他人に左右されることなくしっかり話を聞かなきゃ。

隣の人に釣られて自分まで引きずり込まれちゃだめよね。

その後は気を取り直し集中していたせいか、周りを気にすることなく社長からの訓示を最後まで聞くことが出来た。

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