いつか、きっと。
恋しかった、この唇が。

ずっと、欲しかった。

お父さんまだ帰ってなくて良かった。

いや、友也は多分お父さんが居たとしてもキスしてくれたはずだけど。

しばらく友也のしたいように唇も舌も委ね、心地好さに身を任せていた。

「んっ…………ァ………」

角度を変えられるたび、唇の隙間から漏れる吐息。

そしてその吐息さえも奪うようにピッタリと塞がれる唇。

舌が触れ合ったり絡ませられたりする深い口づけを惜しみなく与えられ、身も心も満たされていくのが分かる。

好き。

友也のことが、どうしようもないくらいに……好き。

言葉にできないこの想いをキスに込める。

いくら偽者彼女だって、こうしてキスしてるのは本当なんだから。

私がキスしたいと思うのは、今までもこれから先もずっと友也だけなんだから……。

想いを確かめ合うことは出来ないとしても……。

「ねぇ……友也ぁ…………」

軽く触れ合ったままの唇の僅かな隙間から、吐息混じりの甘い声を逃がしてみる。

「………………ん?」

唇が触れてるのか触れてないのか、ギリギリの距離を保ったまま友也が反応した。

「友也は?私の事、どがん風に見とると?」

唇の距離が急に離れたかと思うと、向き合ったままでそっと優しく抱きしめられる。

また顔が見えなくなってしまった。

ねえ、わざと?

私に顔を見られたくないの?

「さっき、言うたやろ。聞いとらんかったか……」

さっきって『可愛か』って言ってくれたこと?

それは……ノーカンでしょ。

「なんならもっかい言うてやろうか?」

また耳元で囁くような声。

くすぐったくなって身をよじった。

違う、そんなんじゃなくて…………。

本当は離れたくなんかなかったけど、意を決して友也の両肩を掴み、グイッと体を引きはがした。

驚いたように目を丸くして私を見ている友也に問いかける。

「私はちゃんと友也の目ば見て言うたよ。だけん友也も同じようにして。私は友也からしてどがん女か、聞かして」

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