いつか、きっと。
独身寮での一人暮らしも、思ったよりも快適だった。

誰に気兼ねすることなく、好きなようにしていられるから気が楽だったんだと思う。

佐世保に来て一週間が過ぎた。

出張期間はあと一週間くらいかと予想していたけど、それはちょっと甘かったようだ。

『お前がそっちにいる間に頼みたいことがある。ちょうど良かった。あと十日くらいそっちにおってくれんか?』

私の予想より三日ほど長い。

長い方が私としては助かるけど。

ダメだ、まだ私は逃げの姿勢を崩せていない。

「課長、ちょうど良かったって。次の週末までだったら父が迎えに来てくれるかもって言ってたのに……」

『それ本当に親父さんか?彼氏の間違いじゃないのか』

いまの私に"彼氏"ってNGワードなのに!

そんなこと課長は知らないから、文句を言うわけにはいかない。

「私の彼氏は忙しいから迎えには来てくれないんです!だったら課長が迎えに来てくださいよー」

まさか、課長にまでバカ正直に偽者彼氏だったなんて言える訳がない。

私って嘘だらけの人生なんだな。

『そのつもりだ。俺もそっちに行く予定があるから、拾って帰ってやるよ』

出張が今月末までになったことを知らせると、残念がるどころか喜び出したお母さん。

『あんたがまだ帰れんとやったら、泊まりがけで遊びに行くわ!佐世保なんて滅多に行くことなかし、いい機会やけん"海きらら"とか行こうで!』

「へっ!?泊まりがけ?ちょっと待って、私がおる独身寮の部屋は狭かけん無理ばい」

『なんば言いよっと。ちゃんとホテルに泊まるさ。さ、そうと決まれば早ようホテルば予約せんば!じゃね、明日美』

そう言うが早いか、電話を切られてしまった。

わざわざ泊まりがけで遊びに来るなんて。

そこまでしなくてもいいんじゃないかなと思ったけど、お母さんがすごく楽しそうだったからいいか。

家族そろってどこかに出かけることもなくなってたもんね。

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