いつか、きっと。

結局私は佐世保出張の間に平常心を取り戻すというミッションを遂行できないまま、長崎に帰ってきた。

どちらかから連絡を取らなくても、隣に住んでいるのだからバッタリ会ってしまう可能性もある。

もしそうなってしまった場合、どうしたらいいのか、いいアイデアは浮かばなかった。

友也の目の前で狼狽えてしまうのはカッコ悪いから、ちゃんと考えておかないとまずいんだけど……。

でももう"偽者彼氏"ですらないんだから。

そこまで気を遣わなくてよくない?

なんで私だけが友也を意識してあれこれ気を揉まないとならないの。

会ったら会ったときよ!

向こうが拍子抜けするくらいに平然と普通に接してやるんだから!

いつ友也に会ったって平気だと言い聞かせたものの……。

出勤時や帰宅時などアパートや近所で会うかもしれないと思うとドキドキしてとても平常心ではいられなかった。

『あら、友也。久し振りね!元気やった?』

心の中でシミュレーションを何回も繰り返していたはずなのに。

友也はバス通勤ではないし、通勤時間や帰宅時間もいつも同じではないからだろう。

私だって朝はほぼ同じ時間に家を出るけど、帰宅時間はその日によってまちまちだし。

私が意識的に友也を避けたいと思っても、それは難しいことだ。

それなのに、私たちが偶然にも遭遇することはないまま日数が過ぎていった。

この時期の友也は新学期が始まって間もない事もあって、忙しくしているだろうということは把握していた。

先月末は担任している生徒の家庭訪問だったんだろうし、今月末は運動会があるはず。

通常の授業に加え、学校でのいろんな活動があったり、時には校外での研修会に参加したりと先生って結構忙しいものなのだ。

今はちょっと距離を置いてしまっているけど、長年"偽者彼女"として誰よりも近くで友也を見てきたんだから。

毎年の流れを見て来て、大体の年間スケジュールも分かってきたし。

きっと今頃は運動会に向けての準備でバタバタしているんじゃないかな。


ゴールデンウィークも終わり、通常の日々が戻ってきたかのように思えた。

だけど私はまだ長崎に戻って来てから自分のペースを取り戻すのに苦労していた。

こっちに戻ってきたら瀬名くんに会えるかと思ったけど、瀬名くんは引継ぎの真っ最中だとかで福岡に行ってて会えなかった。

「課長、瀬名くんはいつ戻って来るんですか?こっちでも引継ぎありますよね」

「福岡での引継ぎは二週間の予定やけん、帰って来るとは来週末かな。なんだ生田は瀬名に会えんで寂しかとか?今はまだ引継ぎけど異動したらなかなか会えんもんな。うん、その気持ちは痛い程わかるぞ……」

課長、何を勘違いしてるんだろう。

寂しいなんて一言も言ってないのに。

でも……。

「同期だし一緒に仕事して来たから、いなくなったら変な感じはするかもしれませんね。そうだ!送別会しましょう!!」

「おお、そうすっか。生田は同期やけん、幹事頼むばい」

まぁ、仕方ないか。

最後くらい楽しく笑って送り出してあげてもいいよね。

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