いつか、きっと。
飯田課長から告げられた病院へ着いたのは、電話を受けてから約一時間後だった。

日曜日なので外来の患者さんは当然だけど誰もいない。

シーンとした外来受付と待合室をキョロキョロと見回すと、奥の方のベンチに腰かけている課長の姿が目に入った。

「課長、お疲れ様です。遅くなってすみません……」

あんまり大きな声を出すのもどうかと思い、なるべく足音を立てないように気を付けながら課長のそばまで近づいて声をかけた。

「ああ生田、お疲れ。休みなのに悪いな。さっき瀬名の家族に会ってきた。瀬名は今、手術中だ」

「交通事故って、どこで?確か瀬名くんは今日福岡から戻って来たんですよね」

課長が瀬名くんのお父さんから聞いた話を、私にも教えてくれた。

瀬名くんは今朝福岡を発って、長崎に帰って来たらしい。

事故が起きたのは、瀬名くんの自宅の近所。

もうすぐ家に着くと思ってホッとしたのか、油断したのか……。

日曜日の午前中ということもあって、外で子どもたちが遊んでいたようで。

運転中、突然目の前に飛び出してきたボール。

そしてそのボールを追いかけてくる男の子の姿が見えたのか、とっさに逆方向の左に急ハンドルを切ったらしい。

車は電柱に激突して停車。

左側の歩道に通行人がいなかったのは幸いだったけど、瀬名くんは頭に怪我を負ってしまった。

「ボールを追いかけてきた男の子の母親が救急車を呼んで、一緒に病院まで付き添ってきたらしい。瀬名のご両親は病院に来て、事故当時の様子を説明してもらったそうだ。自分の息子のせいで瀬名に大怪我を負わせてしまったと責任を感じてるんだろうな。あいつも子どもを守ろうとして事故を起こしてしまったんだろう。手術が上手くいってくれることを願うしかないな、今は」

瀬名くん……。

自分が怪我しても、男の子が無事だったことを聞いたらホッとするんじゃないかな。

そのためには、自分が元気にならないといけないね。

大丈夫きっと、大丈夫……。

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