いつか、きっと。
「もう、どうせお母さんが何ば言うても聞かんとやけん……。まあいつかは明日美もお嫁さんにもらわれてしまうとやろうし、その予行練習って思わんばやろね。親なんて寂しかもんばい……」

お母さん……。

自分勝手な娘でごめん。

でも瀬名くんが復帰したら私はまた長崎に帰ってくるから。

いつまで福岡にいることになるのかまだ未定だけど、必ず帰ってくるから待ってて。

お嫁入りの予定もないし、ね。

「それでね、二人にお願いのあっとけど。私が福岡に行くってこと、御子柴さんには黙っとってほしかと。くれぐれも口ば滑らせたりせんごとしてね。特にお母さんは、うっかり言うてしまいそうやけん心配けど……お願いします」

友也には親づてに知られるのではなく、自分でちゃんと伝えたい。

福岡に行く前に会って話をしないと。

多分今は運動会前で忙しいだろうから、運動会が終わって次の土曜日が狙い目。

その翌日には福岡に発つことになりそうだから、チャンスはそこしかない。

「私、佐世保出張の時に自分で志願したって言うたよね。課長から適任者って言われたともあるけど、本当は逃げとった。友也の"偽者彼女"でおられんごとなって、友也と偶然顔合わせたりするのが怖くなったと。友也と離れて心ば落ち着かせようかなって。……でも、ダメやった」

佐世保に行ってた時は本当に辛かった。

友也からも未来からも家族からも離れ、一人でいた方が気が楽だと思ったけど、そうでもなかった。

何かにつけ友也の事を思い出し、苦しかった。

「今度は違うよ。友也から逃げるために福岡に行くとじゃなか。嫌な事から逃げてばかりの自分を変えるために、仕事にももっと自信持てるようになるために、福岡で頑張ってみる。結局また友也と離れることになるけど、今度はきちんと向き合うって決めたけん。福岡に行く前に会って話すつもりでおると。やっぱり私……今でも友也の事が好きやし」

私の想い、上手く伝えられるか分からないけど。

伝えようとする努力はするべきだよね。

私が向き合わなければいけないのは、友也だけじゃない。

もう一人の親友、未来。

あのファミレスで二人で会ったのが最後、まったく連絡を取っていない。

未来にしてみれば友也と付き合うのに私の存在は邪魔でしかないんだろうし、向こうから連絡してくるはずがない。

福岡出張まで慌ただしく時間を作るのは難しいかもしれないけど、未来とも会って話がしたい。

今、私と未来の間には高くて分厚い壁がそびえ立ってる。

このままではこの壁に阻まれ、二人の距離はどんどん離れていってしまう。

勇気を出して壁を壊さなきゃ。

未来とはずっとこの先も親友でいたいから。

今週は日曜日までほぼ休みなしだし、来週も引き継ぎに追われるだろうから、時間を取れるとしたら土曜日くらいしかない。

友也と未来、できれば別々に一対一で話がしたい。

瀬名くんが『お前も頑張れ』って背中を押してくれたんだから。

瀬名くんも生きて自分の目的を果たすために、今必死で頑張ってる。

私も、もっと必死にならなきゃ。



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