いつか、きっと。
『しばらく会わない間に小野さんはオヤジっぽくなりましたね』

なんてことは例え冗談でも言えないけど。

転勤直前に結婚して、今では二児のパパなんだもん。

独身の頃とは違って見た目も貫禄でてきたかも。

だけど歳の重ね方が素敵というか、自分に自信を持ってる人って姿勢もビシッとしててカッコいい。頼りがいのある先輩がいてくれて本当に良かった。

小野さんが気にかけてくれてるのは、私だけではないだろう。

きっと瀬名くんの事故のことで心を痛めているに違いない。

本当なら来る必要がなかったのに、わざわざ福岡に来てくれたことを感謝しなきゃ。

瀬名くんの前任者はもう引き継ぎを終えて異動してしまっていた。

小野さんが福岡にいたときの同僚だったということで、連絡をとってくれていたらしい。

私が知らないところでいろいろ動いてくれて、流石だな……。

小野さんの期待に応えるためにも、しっかり業務に集中しないと。

小野さんは福岡勤務の経験があるから、仕事の事だけでなく生活の面でもいろいろとアドバイスしてくれた。

住む場所は会社所有のアパート。

佐世保の独身寮と部屋の広さは同じくらいで、このアパートも独身者向けのようだ。

「瀬名がこの部屋に入る予定やったけん、もう入居の準備も整っとる。無駄にならんで良かったってとこかな。長崎から持ってくる予定の荷物は宅配便でここに送ればよか。大きか物とか重たか物とか送っとけば引っ越し当日身軽でよかやろ。来るときはJRか?それとも彼氏が福岡まで車で送ってくれるとか……」

いや、だから小野さんってば。

送ってくれるなんてことある訳ないんだけど、そこをはっきり否定したくない私。

「どうでしょう?私の彼氏忙しかけんですねー。もし送ってくれるとしても駅までとか……。小野さんはもちろんこのアパートじゃなかったんですよね?」

小野さんは結婚して福岡に来たんだから、独身向けのアパートには住んでなかったんだよね。

結婚か……私もいつかは……。

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