いつか、きっと。
「俺はここじゃなくて社宅に住んどったけん。ほら、あそこ」

窓から外を見ると、小野さんが指差す先に同じようなアパートが目に入った。

「あそこはファミリー向けの社宅。瀬名も最初はここに入るけど、そのうちあっちに移るつもりでおるとか、言いよったかな。まさかアイツが結婚考えとるとは意外やった。瀬名より生田が早かやろうと思っとったけんな俺は」

瀬名くん、福岡に来るたびに彼女に会ったりしてたのかな。

結婚を考えるとか、思ったより進展してるんじゃないの。

私はまだ友也と会って話すことすら出来ていないのに。

かなり遅れを取ってしまった。

これは気合いを入れなければいけない。

だけど私たちは付き合っているわけでもないし、偽りの恋人関係ですら解消されてしまった。

おまけに友也には未来という彼女がいるし。

マイナススタートだけど、大丈夫かな……。

ダメだ、また弱気になってる。

もうこれ以上悪い状況になることはないんだから、多分。


小野さんが助っ人として来てくれたおかげで、仕事の引き継ぎも新生活をスタートさせるための準備も滞りなく進めることが出来た。

「小野さん、たくさん助けていただいて本当にありがとうございました。私一人だったら不安だったし、こんなにスムーズに進める事なんて出来なかったと思います。これでなんとか頑張れそうな気がしてきました」

「生田のことは俺の妹みたいな感覚やけん、気にするとは当然。こがん時には弟も妹も平等に面倒見たかって思うもんさ兄としては。そいけんあんま気にすんなよ」

「え?小野さん、もしかして瀬名くんの引き継ぎの時も同じように福岡に来てたんですか?」

「そりゃそうさ。弟のためにいろいろ世話焼いてやったに決まっとるやろーが」

そ、そうだったんだ。

小野さんって面倒見が良くて頼りがいのある先輩に違いないけど、ちょっと過保護だったりするかな。

「瀬名は、生田の事ば心配しとったぞ」

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