いつか、きっと。
今まではこんなことやってても、運動会だけだからって開き直ってた。

偽者だけど一応彼女なんだし、もし見つかったとしてもいくらでも言い訳できるって思ってた。

でも、今年はそうはいかない。

もう偽者彼女ですらないんだから、こんなストーカーじみた行動は一歩間違うと犯罪行為になってしまう危険性だってある。

慎重に慎重を重ねて、目立たないように注意しなければ。

午後のスタートは応援合戦が行われるみたい。

色別に別れた各組の趣向を凝らしたアピール合戦だ。

友也はマイクを持って生徒たちに指示を出しているから、今年は応援合戦を仕切る役割らしい。

教師五年目ともなると堂々とした司会進行で、友也も頑張ってるんだなって私も嬉しくなる。

生徒たちのアイデアがいっぱい詰まった応援合戦に夢中になりつつも、チラチラと友也を視線で捉えてしまう。

その真剣な姿をしっかりとこの目に焼き付けておこう。

マイクで喋っている友也の声が会場内に響くのを、この耳で聴き逃さないようにしなきゃ。

応援合戦が終わったら帰るからね。

最後まで頑張ってね、友也。




運動会の翌日からは、引き継ぎの最終段階に入った。

ここ長崎で私が現在受け持っている仕事を、小野さんに全部任せることになったのだ。

小野さんってやっぱりすごい。

瀬名くんだけでなく私の分まで『俺に任せろ』だなんて。

しかも相手が小野さんというだけで安心感が半端ない。

「生田、ちょっと確認してもいいか?」

時々、鋭い質問が飛んでくるから気が抜けないけど。

それにしてもいくら小野さんがデキる先輩だからといって、瀬名くんと私の二人分の仕事を全て引き受けてくれるなんて。

「小野さんの脳内ってどうなってるんですか?もちろん私なんかと比べてはいけないと思いますけど、働きすぎじゃないですか」

過労で倒れたりとか、ないよね。

小野さんまで戦線離脱してしまったら困るどころじゃない。

「あ?そがんこと心配されるとは、俺もまだまだばいな。仕事量は調整して他の奴にも振り分けるけん問題なか。お前は自分のことに集中しろよ。ただな……」

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