いつか、きっと。
私が小野さんを心配してるのが気に入らなかったようだったけど、ふと何か思い出したように真剣な眼差しになった。

「俺にも限界はあるし、そうそういつまでもフルパワーって訳にはいかんけんな。瀬名には早よう復帰してもらわんば困るし、生田もずっと福岡におらせるつもりはなかぞ」

「え、ええそうですよね……。私だって長崎に戻って来たいですし」

小野さんが何を言いたいのか、真意をつかみ損ねてしまった。

福岡に行くように仕向けたのは小野さんなのに。

「お前らを指導して育てたとは俺やけんな。まだまだ簡単に追いつかれるつもりなかけど、いつかは追いついてくれんば困るって思いもある。つまり、生田と瀬名には期待しとるってことさ。生田、今回の福岡行きはお前にとってはチャンスと思え。ここではできんことばあっちで経験して自分のものにせろ。パワーアップして帰ってくっとば待っとるけんな」

そうだ私にとって福岡出張は修行みたいなものなんだ。

頑張って少しでも経験を積んで帰って来たい。

小野さんの期待に応えるためにも、しっかり頑張らなきゃ。


月曜日から金曜日までの五日間で、小野さんとマンツーマンでの引き継ぎを終えることが出来た。

そして金曜日の終業後、プチ送別会を開いてくれることになった。

とはいっても飯田課長が小野さんと私を居酒屋に誘ってくれただけだけど。

送別会は私が遠慮してしまったから。

だって本当だったら瀬名くんを送り出してあげるはずだったし、まさか自分が送られる側になるとは思ってもいなかった。

だけど私は瀬名くんとは立場が違うし。

ただ出張に行くだけの事で送別会っていうのもちょっと気が引ける。

そんな私を励まそうとしてくれているんだろうな……課長も小野さんも。

せっかくご馳走してくれるというのにソフトドリンクっていうのも白けさせてしまうかなって思うけど、できるならお酒は飲みたくなかった。

なぜかというと、翌日に私は一大事を控えているから。

そう、明日こそは友也に会いに行く。

直接会って、話をすると決めたから。

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