いつか、きっと。
病院に到着し、逸る気持ちを抑えつつ瀬名くんの病室に急いだ。

課長が病室のドアをノックしようとしたその時……。

「まだ帰らんで」

「でも、もう遅かし。それに会社の人が来るかもしれんやろ?」

瀬名くんと女の人の声。

瀬名くんもう喋れるんだ、良かった!

でも誰と喋ってるんだろう。

課長がドアをそーっとスライドさせ、中の様子を窺い見る。

小野さんと私も負けじと覗いてみる。

「まさか、こがん時間に来るわけなかろ。俺がおらんで忙しかはずやけんまだみんな仕事中さ」

瀬名くん、どんだけ私たちを働かせるつもりなの。

しかし、そんなことを聞いたあとではノックしづらい。

課長と小野さんは動く気配がないし、まだ覗き見続けるつもりかな。

「やっぱり私今日は帰るけん。圭ちゃんきつかやろうし、面会時間とっくに過ぎとるし……」

彼女、もしかして福岡にいるって言ってた幼馴染み?

瀬名くんが好きな人、だよね。

「唯子!頼むけん、もう少しだけ……。俺の側におって……」

「圭ちゃん……分かった。分かったけん泣かんで。もう少しここにおるけん」

えっ……。

瀬名くん、泣いてる?

課長がそーっと静かにドアを閉めた。

無言のまま廊下の向こうを指差し歩き出す。

小野さんと私は黙って課長のあとを着いていった。

エレベーターの前まで来て、小声で会話する私たち。

目の前のナースセンターは出払っているのか人気はない。

夜の病院はシーンと静まり返っている。

「せっかく来たけど、今日はこのまま帰るか」

「いま行ったら邪魔者ですね、俺ら」

「私、明日か明後日また来てみます。出発前に瀬名くんと話しておきたいし……」

福岡に発つ前に瀬名くんの意識が戻ってくれて良かった。

いろいろ報告しておきたいことがある。

仕事のこととか、その他諸々。

まあ、諸々に関してはまだ実行前だから、どれだけ話せるかは明日の成果にかかってるけど。

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