いつか、きっと。
「俺のせいで、生田の人生プランまで狂わしてしもうたんやな。ごめんな……」

なんだか、瀬名くんらしくない。

こんな弱気な発言するなんて、調子が狂ってしまう。

「悪いって思うとなら早よう元気になってよね!私の人生プランは私が決めるけん心配要らんばい。福岡行きは想定外やったけどさ、私もステップアップできるごと頑張るつもりやけん。瀬名くんだって……"ゆいこ"さんやったっけ?彼女さんのためにも」

「お、おい生田。なんで知っとるとや、唯子の名前まで」

は、しまった!

瀬名くんを元気づけようとしてつい。

昨日病院に来たことは言わないつもりでいたのに。

だってあんな覗き見してたなんて言える訳がない。

その時に"ゆいこ"さんの名前を聞いてしまったけど、瀬名くん泣いてたみたいだし。

見られてたのを知ったら嫌だよねきっと。

そんな私の心の内を知る由もない瀬名くんが、私に言った。

「アイツか……。ってことは、仲直りできたとか?」

「仲直りって、もしかして……友也のことば言いよっと?」

「当たり前やろ。他に誰のおっとか」

そりゃそうだけど。

参ったな、本当なら友也と話をしてから瀬名くんにきちんと報告したかったのに……。

順番が逆になってしまった。

だけど福岡に発つのは明日だし、友也と話し合う以前に会える可能性すら低いという最悪な状況だ。

「うん、ちゃんと話したよ。だから瀬名くんはなんも心配せんでよかと」

また嘘をついてしまうのは心苦しいけど、これ以上瀬名くんに私たちのことで気を揉ませるわけにはいかない。

「そいは良かった。で、アイツのこと信じられそうか?」

どうしよう、なんて答えればいいのだろう。

瀬名くんに背中を押されたから、逃げずに向き合うと決めたけど。

まだ何も進んでいないし、この離れてしまった距離を縮められるのかどうかすら……。

「瀬名さーん。入りますよー」

ドアをノックする音と同時に聞こえたのは、看護師さんの声だろうか。

「あらっ!?彼女さんが来られてたんですね」

急いで否定しようとしたけど、それよりも早く瀬名くんが答えた。

「こいつはただの同僚なんで。リハビリの時間ですね」

リハビリ?

瀬名くんリハビリしてるんだ。

「せっかくお話し中のところ申し訳ありませんが……」

「あっ、いいえ!私もそろそろ帰ろうと思ってたので」

本当は仕事のこととかもっと話したかったけど、リハビリの邪魔しちゃいけないし。

とりあえず福岡に行く前に会えただけでも良かった。

「生田、来てくれてサンキューな。御子柴は本当にイイヤツって思うけん、信じてやれよ!」

ここで自信持って『うん』と返事ができればいいのに。

今の時点ではなんとも答えようがない。

「じゃ、瀬名くんが復帰してくるとば待っとるけん!リハビリしっかり頑張ってね」

ごめん瀬名くん。

ちゃんと友也と話せるように頑張るから。

もう少し待って。

リハビリに向かう瀬名くんを見送り、私も病院を出た。


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